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東京地方裁判所 平成6年(ワ)205号 判決

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

原告が被告に対し、別紙物件目録記載の建物に関する賃貸借契約に基づき金三二〇万円の保証金返還請求権を有することを確認する。

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)に関する賃貸借契約の締結に当たり、前賃貸人であった小原良二(以下「小原」という)に対して金四〇〇万円の保証金を差し入れた原告が、その後、小原から賃貸人の地位を承継した被告に対し、約定による償却分を差し引いた金三二〇万円の保証金返還請求権が存在することの確認を求めたのに対し、被告が、本件訴えは確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして却下を求めた事案である。

一  原告の主張

1  原告は、昭和五六年三月九日、小原から本件建物を賃料は月額一〇万円、期間は三年とする約定で借り受けた(以下「本件賃貸借契約」という)。

2  本件賃貸借契約の締結に当たり、原告は小原に対し、本件賃貸借契約より生じる債務を担保するために保証金として金四〇〇万円(以下「本件保証金」という)を交付したが、その際、原告と小原は、本件賃貸借契約の終了時にその二割を償却した残金三二〇万円を返還することを合意した。

3  被告は、昭和五七年二月二日、小原から本件建物の所有権を取得し、本件賃貸借契約上の賃貸人の地位を承継した。

4  被告は、平成五年六月二二日、原告外二名に対して賃料増額の調停を申し立ている(東京地方裁判所平成五年(ユ)第二一六号事件)が、右調停手続において本件保証金差入れの事実を否定し、また、右事実が認められたとしても被告に返還義務はないと主張しているから、原告は本件賃貸借契約の終了に先立ち、本件保証金の残金である金三二〇万円の返還請求権を有することの確認を求める必要がある。

二  被告の主張

確認訴訟においては、いわゆる確認の利益が必要である。本件で原告が確認を求めている権利は、将来、本件賃貸借契約が終了したときにその存否が確定する保証金の返還請求権で、その時期や金額は現時点においては全く未確定のものである。そして、このような将来発生することが不確実な権利の存否を確認してみても何ら当事者間の紛争を抜本的に解決することにはならないから、このような不確実な権利の確認を求める本件訴えは、確認の利益欠く不適法なものとして却下されるべきである。

第三  当裁判所の判断

一  確認訴訟においては、いわゆる確認の利益、すなわち訴えの目的である権利又は法律関係の存否について当事者間に紛争対立があって、このような不安定な状態におかれている原告の法律的地位を安定させるため、判決によりこれを確定することが適切であると認められることが必要である。

二  ところで、原告が本件訴訟において確認を求めている権利は、本件賃貸借契約の終了時に被告から原告に対して返還されるであろう保証金に関するものであるが、原告の主張によれば、原告が小原に対して交付した保証金は、本件賃貸借契約より生じる債務を担保するためのものであるから、右本件保証金の返還請求権は、その性質上、将来本件賃貸借契約が終了し、本件保証金によって担保されるべき債務がすべて清算された後に発生するもので、返還される額は、本件賃貸借契約の終了後本件建物の明渡完了までに生じる未払賃料、修繕費、使用料相当損害金はもとより原状回復に要する費用等を控除した上で確定されるべきものである。

三  本件においては、現在も本件賃貸借契約が継続中で、原告と被告との間で賃料増額に関する調停が係属していることは原告も自認しているところであって、原告が確認を求めている保証金返還請求権なるものは未だその具体的な内容が確定していない抽象的な権利にすぎず、このような権利の存在を確認してみたところで保証金の返還を巡る紛争の終局的解決とならないことは明らかである。したがって、右請求権の確認を求める本件請求に係る訴えは、法的紛争としては未成熟なものを確認訴訟の対象とするものであり、即時確定の利益を欠く不適法な訴えといわなければならない。

四  以上の次第で、本件訴えは確認の利益を欠く不適法なものというべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

(一棟の建物の表示)

所在 朝霞市本町二丁目壱八五参番地弐

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

床面積 一階 四八参・四八平方メートル

二階 参五七・〇八平方メートル

三階 参〇九・壱八平方メートル

四階 参〇九・壱八平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 本町二丁目壱八五参番弐の弐

種類 共同住宅・店舗

構造 鉄筋コンクリート造四階建

床面積 一階 参五〇・五八平方メートル

二階 弐九参・弐六平方メートル

三階 弐九七・参壱平方メートル

四階 弐九七・参壱平方メートル

右建物の一階一〇三号室(約三六・五九平方メートル)

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